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2011年7月20日 (水)

工程表が信じられないのは、情報開示が不十分だからだと思う件

3連休明けの7月19日、東京電力と政府の統合対策本部は、工程表を改訂して発表した。4月17日以来、3度目の改訂になる今回は、初めて東電と政府が統一した工程表を作成した。ところがその中身は、多くの疑問を感じさせるものだった。

当初目標であり、原発を安全に停止させる時の絶対条件だった「冷やす」「閉じ込める」については大きく後退。とくに閉じ込めるための格納容器の修復は「現状では不要」と表記されている。政府は、今後3〜6カ月で達成することを目指すステップ2終了時には避難区域の見直しをするとしているが、放射性物質を閉じ込める機能を回復しないままで安全に帰宅できるとは、とても思えない。工程表の疑問を見ていきたい。

東電本店で行った改訂工程表の発表は、当初は19時30分からだったが、直前に官邸で行われた工程表についての会議と発表が遅れたため、20時過ぎ になってようやく始まった。発表は開始早々、時間が長引くことが予想されるものだった。冒頭で司会者から、細野豪志原発担当大臣と、西澤俊夫・東京電力取 締役社長が20時30分頃に退席することが告げられたからだ。

このため退席までの30分間に質問できた5人のうち、私を含めた3人が、なぜ東電社長が早々に退席するのか、どこにいくのか、理由はなんなのかという疑問をぶつけることになり、工程表に関することを聞く時間はそれだけすくなくなってしまった。

結局、細野大臣は公務(その後、在京キー局全局のニュース番組に出演していた)、西澤社長は、内容は明かせないが大事な用事があるとのことで退席。 公務の細野氏はともかく、東電社長として今後の見通しを示す時に、これ以上の大事な要件があるとは思えず、相変わらず加害者であるという意識が薄いとしか 言いようがない。

もっとも西澤社長は、東京電力が今回の事故の加害者であるとは言わず、当事者であることは十分に認識している、という言葉を使っている。賠償を考えればこの答え方になるのはわかるが、冒頭で退席したことを思うと、当事者意識も薄いのではないかと思わざると得ない。

と、前置きが長くなったが、工程表の話だ。発表会後に岩上さんチャンネル(IWJ)のまとめでも触れたように、ポイントは2つ。原発の基本である「止める、冷やす、閉じ込める」のうち、後段2つの冷やす、閉じ込めるが実現できるのかどうかという点だ。

まず、「冷やす」に関して工程表ではこれまで、「冷温停止」を目指すとしてきた。冷温停止は、通常の運転時は原子炉から出てくる冷却材(水)の温度が100度以下になる状態をいう。

ところが福島第一原発1号炉、2号炉、3号炉は燃料が完全に溶けてしまい、おそらく一部は圧力容器(RPV)の底を抜けて格納容器(PCV)まで達 していると見られている。加えてPCVは事故当初から配管類が破損し、また燃料棒損傷による温度上昇によってPCVそのものも破損している可能性が高い。

そのため事故直後から注入していた数万トンの水はすべて外に漏れている。この状態では、冷却材の温度を測ることもできないため、通常の冷温停止状態をつくることは不可能だった。

そのため今回は、新たな冷温停止の定義として、RPV底部の温度が100度以下になっていることと、新たに放出される放射性物質の量を管理できていることを条件にした。当然だが会見では、この定義に疑問が相次いだ。

まず、燃料がRPVを突き抜けてPCV底部に溜まっている可能性があるのに、なぜRPV底部の温度だけで状態が判断できるのかどうかがわからない。燃料の状態を確認できない状況で、100度という温度設定に意味があるのかどうかも明確ではない。

もうひとつの、放射性物質の放出量を管理できているという条件は、さらに不思議だ。東電と統合対策本部は、現在の放射性物質の放出量を、毎時10億 ベクレルと試算していることを、初めて発表した。この数値は西門のダストサンプリングから類推したもので、保安院と東電は保守的に出したとしているが、今 度、サンプリングの数が増えると数値は上下する可能性がある。一方で発電所の敷地境界の放射線量は年間1.7mSvになっていて、統合対策本部ではこれ を、年間1mSvに低減したいとしている。

ところで新たな工程表では、前回までの工程表にあった「閉じ込める」機能を回復するために必要な、PCVからの漏洩カ所の密閉(工程表の対策16) を「現状では不要」としている。このため冷却するための冠水(対策9)も「現状では不要」になり、冷却効果を高める熱交換機の確保(対策13)も「現状で は不要」と記載されている。

どうも奇妙だ。閉じ込める機能の回復を放棄しているのに、どうして放射性物質の放出量を管理できるようになるのだろう。この疑問に対して東電は、炉 心の温度を下げていくことで、放射性物質の放出量は減っていき、管理できているといえる状態になる、としている。確かに放出量は減るだろうが、閉じ込めて いるわけではないので、漏れ続けるのは間違いない。

ここで思い合ったことがひとつ。そういえば今回は、いつも出てくる「冷やす」「閉じ込める」という緊急時対応条件について東電も政府も触れていなかった。つまり、この条件がクリアできなくなったのかもしれない。

この点に関しては、実のところ、予想の範囲を出ていない。1号機から3号機まで、原子炉建屋の放射線量が高くて長時間の作業ができない状態であるこ と、地下の線量はさらに高くて近寄りがたく、溜まっている汚染水の核種分析さえできないことなどを考えると、PCVの漏洩カ所を確認して補修するなど、と うてい無理だと思えるからだ。

もちろん(というかなんというか)、東電も政府も、「できない」とはいわず、工程表には「現状では不要」と表記している。こんな表現でごまかしたところで意味はなく、当初の目標が夢物語であったというだけなのだが、それならそれで明確にしてくれればいいだけのこと。

例えば、熱交換機を使わない状態でどのくらい炉心の温度が下がるのか、そうした温度条件での放射性物質の放出量はどのくらいなのかを、計算式を示して明示してくれればいいのだが、これができない。

東電は、先週土曜日(7月16日)の会見時には、漏れている量以上の水を入れれば冠水できるし、冠水させれば温度は容易に下がると明言し、だから現 状の注水量でどのくらい温度が下がるかは解析していないし必要もない、としていた。その3日後に冠水を断念するという発表をしているが、土曜日の時点では すでに話は進んでいたはずだということを考えると、現在の掛け流しのような状態での試算を公表する気がないように思える。

では保安院はどうかというと、森山善範審議官は、公表できるかというか検討するという。しょうがないので園田康博内閣府大臣政務官に、放射性物質の 放出量が管理できるということは、温度と放出量の関連を示す試算があるはずなので、それを公表してほしい、と要請すると、「精度に疑問があるので出してい ない」という。

政府はそういって、以前はSPEEDIのデータを隠蔽し、結果的に余計な被曝をする人たちを増やしてしまった。このことを引き合いに出して、精度に 疑問があるのはわかるので、そのことを示しつつ、幅のある数値や計算式でいいので出してくれ、と聞くと、出せるよう検討するとの回答がようやく得られた。

問題なのは、PCVの閉じ込め機能を放棄した状態で避難区域の見直しや帰宅が可能なのか、ということだ。現状で毎時10億ベクレルと推計されている 放射性物質の放出量が、どのくらいに下がるのかという数字は公表されていない。また10億ベクレルという数値が、通常の運転時に比べてどのくらい多いのか については、「通常は希ガスとヨウ素だけで、セシウムの基準はないので、比較できない」と、松本純一・東京電力原子力・立地本部長代理は説明する。

実は、どのくらいの放射性物質が飛んでいるかなんていうことは、ほんとうにわからないのかもしれない。わかったとしても、多くの誤差を含むものなので数字だけでは判断できないかもしれない。

それでも、数字を公表すべきだと思う。データがあれば第三者が検証できるし、それを元に帰宅できるか否かの判断基準になる情報を提供できるかもしれ ない。今の政府や東電は、「情報は自分たちが判断するので、あなたたちはそれに従っていればいい」という上から目線の姿勢を崩していないようだが、バカに するにもほどがあると思う。

生殺与奪の権を、事故を起こした張本人(しかも100%過失の加害者である可能性が極めて高い)に握られたままというのは、いかにも気持ちが悪い。最終 的な判断をするのは、私たち市民であろう。政府・東電は全面的な情報開示をする責任があるし、それが工程表を意味のあるものにするのではないかとも思う。

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