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2011年5月18日 (水)

東電が発表した工程表に透けて見える「見解の相違」に、不安が増してしまう

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 5月17日午後5時30分、武藤栄副社長が工程表の更新を発表した。会見に武藤副社長が登場するのは、ちょうど1カ月前の工程表発表以来になる。最近は出席者が減ってきた会見場も、さすがに記者で埋まり、座りきれない人が会場後ろのイスに座っていた。

 しかし、工程表の進捗状況について複数の記者から質問を受けた武藤副社長の回答は、あまり要領を得ないものが多かったように感じる。ここ数日、メルトダ ウンが明確になったことや1号機の圧力容器に穴が開いていること、同じような状況が2号機、3号機でも類推できること、さらには原子炉建屋内の放射線量が 高いままなので作業がはかどらないことや、あちこちの建屋地下に溜まっている大量の汚染水の移送がなかなか進まないことなどから、4月に示されていた工程 表の遅れを予想する声も聞かれていた。

 こうした予想に反し(ある意味では予想通りかもしれないが)武藤社長は、全体の状況について「予定より早くできているもの、予定通りいっているものなど もあり、ステップ1の目標を変えなければいけない状況ではない」とし、新たな工程表でも収束時期に変化がないことを強調した。またメルトダウンや、冠水が 困難になったことについても「(1号機や2号機などは冠水は難しいが)もともと冠水が目的ではなく、冷却が目的。今回示した循環注水で冷温停止は可能」と いう認識を示した。

 一方で、当初の工程表から見た場合の進捗状況について詳しい説明はなく、全体の中でどのくらい進んでいるのかについては「日々の動きを説明している」と答えるだけに留まった。全力でやっているという言葉も多かったが、その結果として全体の何割くらいまで進んでいるのかを裏付ける作業スケジュールの詳細などは不明。

 そんな回答が続く中、「全力でやっても手に負えないのであれば、扱うべきではないという考え方もあるのではないか?」という厳しい質問も出ていた。これに対する武藤副社長の回答は、「事故の結果、たいへん多くの方にご苦労、ご心配をおかけしている。発災以降、最善の努力をして対処してきたつもり。そのプロセス含めて、事故調査委員会もできることなので、その中で判断されることだと思う」という、質疑応答になっているとは言い難いもの。官僚答弁のような言葉からは、残念ながら、情報公開を進める、あるいは真摯に回答するという姿勢を感じることはできなかった。

 工程表の中身を見てみると、初版ではステップ1〜ステップ2までに63項目の対策が示されていたのに対し、改訂版では76項目に増えた。項目が増えたのは、余震対策や現場の環境改善が加わったことによる。もっとも両項目ともにかなり早い時期から指摘されていたことでもあり、今さらという感がないではない。

 とくに作業現場の環境は、食事のひどさやすし詰めの寝場所など、効率的に作業を進める環境とはかけ離れた状況が新聞、雑誌でもたびたび伝えられていた。東電はこうした声に対し、これまで休憩場所の確保などといった対策を検討してきている。それでも、「以前はクラッカーなどの非常食だけだったけれども、現在はお弁当を提供している」と悪びれずに説明する松本氏を見ていると、どこまで本気で対応するのだろうなあと一抹の不安を覚えるのは、気にしすぎであろうか。

 もうひとつ気になったのは、工程表から透けて見える見通しの甘さだ。これは東電だけでなく、工程表を承認している統合本部や保安院など、政府側にも感じる疑念だ。5月17日の朝日新聞電子版の社説は「外部の多くの専門家は『早い段階でメルトダウンが起きているはず』といっていた。なのに東電と原子力安全・保安院は『炉心の損傷』という言葉を使ってきた。小さな事故のイメージに誘導したのではないか」と批判。

 続けて「厳しい想定をしていれば、建屋の爆発をおこした水素発生にもっと注意できたはずだ。汚染水による作業員の被曝(ひばく)も防げただろう」と指摘している。もっとだと思えるし、もしかしたら放射性汚染水の海洋投棄も防ぐことができたかもしれない。
「原発工程表—溶融炉心との闘い続く」 asahi.com
http://www.asahi.com/paper/editorial.html

 圧力容器はもちろん、格納容器の破損も、私が会見に参加し始めた3月17日の段階で予想されていたことだった。3月下旬には、武藤副社長が繰り返す格納容器の「健全性」という言葉の意味を、会見の場で記者や東電の担当課長が考えたこともあった。ここで引き出された結論は、タービン建屋地下や外に流出している汚染水の状況を考えると、格納容器、あるいは配管部分から漏洩している、つまり格納容器は健全とはいえない状態にあるだろうというものだった。

 けれどもこんなことは、事故直後に長時間、冷却水の注水が停まっていたことを考えれば予想はできたのではないか。細野豪志首相補佐官は、5月16日の合同会見で、1号機で14時間9分、2号機で6時間29分、3号機で6時間43分もの間、冷却水の注水が止まっていたことを明らかにしている。こうした報告は事故対策本部には上がっているはずで(もし、この状況さえ認識できていなかったとすると、それはそれで恐ろしい)、これほど長時間、水の供給がなければ何が起こるか、専門家であれば想像できるだろう。

 実際、同じく16日に原子力安全委員会の斑目春樹委員長は、溶融した燃料と接触した水が外に出ているのは間違いないと、3月下旬に原子力安全・保安院に対して助言しているという。であれば、東電も保安院も、圧力容器や格納容器破損の可能性に正面から向き合うべきではなかったかと思う。
「東電の福島原発1号機のメルトダウン発表は「正しい」と斑目委員長 2、3号炉のメルトダウンも示唆」ニコニコニュース
http://news.nicovideo.jp/watch/nw63450

 今回、工程表のスケジュールが見直されなかったことで「現場に負担をかけるのではないか?」と危惧する質問も出ていたが、会見場にいた記者のうち少なからぬ人数は、同じ心配をしていたのではないかと感じる。そして工程表の見通しの甘さは、そのまま避難している人たちの生活設計に響いていく。甘い見通しのまま進み、土壇場になってひっくり返るとしたら、生活の立て直しができないそれまでの避難期間は無駄な時間になってしまう。

 一方で、作業員に過度な負担がかかる恐れを否定できない。東電が人員計画の一端も明らかにしないため、疑念を解消する術がない。加えて、武藤副社長が「メルトダウン」という言葉を最後まで避け、言葉の定義の問題であり見解の相違であるという認識を示すのを聞くと、福島第一原子力発電所が世の中に与えている影響も見解の相違といわれてしまうのではないかという、およそあってはならない疑問まで湧いてきてしまう。

 こうした疑念を消し、避難している人たちや作業現場の人たちの負担を軽減するには、論理的に状況を説明し、透明性を感じられるように情報を公開することではないだろうか。そのためには外部の人間を現場に入れることも重要だろう。国内外から工程表に対してどんなアドバイスがあったのかも秘匿し、技術支援内容も明らかにしないのでは、身内だけで事故処理をしようとしていると思われても仕方ない。

 現状認識は、原発の事故現場だけの話ではない。事故が社会に与える影響まで含めた認識を、社会と共有することが重要なのではないか。直近のことでいえば、工程表の詳細を明らかにすることは、その第一歩になるのではないだろうか。

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東電福島第一原発事故」カテゴリの記事

コメント

工程表の課題として放射性廃棄物の安全管理を取り上げて欲しい。

事故の収束作業で原発敷地内に蓄積する放射性廃棄物をどう処理しようとしているのかが見えない。原発プラントとしては想定外の事態が進行しているのだから、通常の手順と既存の廃棄物処理設備が役に立たない恐れがある。例えば、汚染水の除染フィルターはむき出しの核分裂生成物を吸着する。被爆から現場の方々を守るため、放射能の蓄積が低レベルのうちに頻繁に交換するとして、汚染水を吸ったフィルターを焼却して減量することはできないだろう。被覆された燃料の冷却水とはわけが違う。無理な作業をすれば現場はさらなる犠牲を強いられる。むき出しの核分裂生成物を取り扱う作業の持続可能な環境安全や十分な広さの保管場所の確保は焦眉の重要検討課題ではないのか。永遠に未解決の最終処分場をどうするのかという国策にもつながる。機会があれば是非問い質してください。

木野さん毎日鋭い質問ありがとうございます。のらりくらりに負けずに追求し続けていただきたいです。

これは会見での質問の要望です。東電の放出汚染水が「低濃度」であるということに関して、定義とか、数字を聞くより『低濃度』の汚染水を(武藤さん)は毎日飲めますか。自分の入るお風呂の水に使いますか。この水の中で毎日泳ぎますか、のように聞いたらどうでしょうかね。 ちなみにこの辺(ペンシルバニア西部)では天然ガスの採掘による水の汚染が問題になってますが、この水を「1度なら飲むが自宅の水の水源にするのはいやだ」と説明した人がいます。素人にはとても理解しやすいと思いますがいかがでしょう

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